
いすみ市 HPVワクチン個別通知への軌跡 〜市政と医師会の連携〜
2019.09.11
全国に先駆けて、HPVワクチン接種の個別通知と子宮頸がんについての説明文を
ワクチン接種対象年齢の方々に郵送するという実質的に積極的勧奨の政策決定をした千葉県いすみ市。
今回は、以下の皆様にお話をお伺いする機会を頂戴しました。
いすみ市市長:太田洋 氏
いすみ市健康高齢者支援課課長:藍野かおる 氏
夷隅医師会・外房こどもクリニック:黒木春郎 医師
また、いすみ市の取り組みを聞き、他の自治体にもその取り組みを広げるための取材にいらっしゃっていた、
大阪大学大学院医学系研究科産科婦人科学教室:上田豊 医師

左より、外房こどもクリニック事務長 黒木秀子氏、いすみ市市長 太田洋氏、当協会 顧問 三輪綾子、大阪大学産婦人科学講座 上田豊氏、同講座 八木麻未氏、外房こどもクリニック院長 黒木春郎氏
太田:ようこそ遠くまでお越しいただきありがとうございます。
三輪:お招きいただきありがとうございます。
今回、市からHPVワクチン対象者に個別通知を出す、という他の多くの自治体ではなし得ていない重大な決定をなされました。
その件に関していくつか質問させていただきたいと思います。

小高い丘の上に位置し海の方まで見渡すことができる。いすみ市市役所。
藍野:はい。この件に関しては全国から問い合わせがあります。
どのような経緯で通知を開始したのか、など。全国的に関心が高いのですね。
上田:HPVワクチンがどう信頼を取り戻したらよいかというのが大きな課題で、医師、現場、また行政の理解がそれぞれ得られていないとうまくいかないんです。
太田:その点、いすみ市では黒木先生もいらっしゃって、医師会や地域の先生方がこどもの健康を真剣に考えてくださっています。7月11に「子宮頸がんを予防するために」という公開勉強会に参加し、子宮頸がんワクチン通知の必要性を納得しました。
そして、その日のうちに個別通知を出すことを決めました。そして7月29日より該当者へ個別通知の投函を開始しました。
接種の時期を知ることは若い人の当然の権利です。
我々は医師会を信頼しています。それを精一杯サポートするだけですよ。
黒木:いすみ市はこどもに対しての福祉が手厚いんです。
平成8年からこどものワクチンはすべて無料。
それだけで年間7000万円程かかっていますが、毎年継続してくださっています。
そんな自治体は他にあまりないんじゃないでしょうか。
太田:こどもは宝です。
政策のウェイトをどこに置くかが需要です。あとは覚悟の問題だと思っています。
いい先生と首長が出会ったかどうかで大きく変わってくると思っています。
三輪:今までのお話を伺っていると、すでにしっかりとした信頼関係があり、今回のワクチンの問題に対しても何に優先順位をつけるか、同じ土壌で話し合っていらっしゃる印象です。他の行政だと、どうしても自分の立場を守ろうとして、動こうにも動けない。
そんなところが多いと感じます。
上田:全くそのとおりですね。
このような信頼関係は一朝一夕にはできないと思います。
現在、数十箇所の自治体で通知が開始されているようですが、数千人の小規模な自治体も含まれ、まだあまり多くの対象者には到達していないのではないかと思われます。
私達はこれからもデータを集めてそれを提供し、それが正しい判断につながるように協力できればと思っています。
三輪:この予防接種と関連することとして、いすみ市では性教育はどのようにおこなっているのでしょうか?
藍野:中学校では学校から要請があった場合、保健師が性教育を行っています。
妊娠出産などのことについてはお話しています。
上田:学校の先生や医療機関、行政の職員などへの教育のバックアップが必要ですね。
地域の先生に理解していただき、万が一何か起きても対応できるようにしないといけないですね。
太田:そうですね。そこは取り組んでいかないと行けないところです。
三輪:実際に個別通知を初めてまだ1ヶ月ですが、反響はいかがでしょうか?
藍野:今回通知は高校1年生の女子100名に出しました。
すでに問い合わせが続々と増えています。
通知を出していない子達からも問い合わせがありますよ。
今回は高校1年生だけですが、来年からは接種対象者全員に通知を出す予定です。
上田:来年からHPVワクチンが積極的勧奨でなくなった学年の方が20歳になり、子宮頸がん検診の対象になってきます。
検診の受診率アップにも取り組んでいただきたいです。

新鮮な海鮮料理。8月9月は伊勢海老が旬の時期。
今回の個別通知開始がどのように接種数につながっていくか、データを蓄積しさらなる検討、検証が必要です。
今後も予防医療普及協会として引き続きいすみ市の取組を応援していきたいと思っています。