
子宮頸がんとHPVワクチンについて
2018.04.18
1.「子宮頸がん」とは?
子宮がんは「子宮頸がん(しきゅうけいがん)」と「子宮体がん(しきゅうたいがん)」の2つに分けられます。
子宮頸がんは、子宮の入り口である子宮頸部(しきゅうけいぶ)にできるがんのことで、子宮体部(しきゅうたいぶ)にできる「子宮体がん」とは別の病気です。
(日本産科婦人科学会HPより)
新たに子宮頸がんにかかる患者さんの数は年間約10,000人ですが、初期(0期)のがんである「上皮内がん(じょうひないがん)」を含めるとその数は年間約32,000人に上り、特に近年の増加が著しくなっています。
また、子宮頸がんの死亡者数も年々増加傾向にあり、最近のデータでは年間約2,900人の患者さんが亡くなっています。
他の臓器にできる多くのがんとは異なり、特に20-40代の若い世代で患者さんが増えていることも子宮頸がんの大きな特徴のひとつです。
(日本産科婦人科学会HPより)
2. 子宮頸がんの原因は?
ごく一部のまれなケースを除けば、ほとんどの子宮頸がんはヒトパピローマウイルス(Human papillomavirus:HPV)の感染が原因となっています。
HPVは性交渉によって感染しますが、いわゆる「性感染症」とは大きく異なる点が2つあります。
①感染の機会が多い
HPVはごくありふれたウイルスであるため、性交渉の経験がある女性のうち50%-80%はHPVに感染する機会があると推計されています。
②感染=発症ではない
HPVに感染するだけでは自覚症状はなく、約90%はやがてウイルスが体から自然に排除されます。ただし、持続的に長期間感染した人の一部で、がんの前段階である異形成(いけいせい)という前がん病変ができた場合、そのうちの数%がさらに数年を経て子宮頸がんへ進行することがあります。
3. 子宮頸がんの治療は?
子宮頸がんの治療は、手術でがんを切除する外科療法が基本となります。
手術でどこまでの範囲を切除するかについては、患者さんが将来妊娠できる可能性を残したいと希望しているかどうかということも関係しますが、前がん病変やごく初期のがんまでの段階であれば、子宮をとらない治療も可能です。
①高度異形成(前がん病変)~上皮内がんの場合:円錐切除術
がんが臓器の表面を覆う上皮内にとどまっている「上皮内がん」の段階で見つかった場合には、その部分だけを円錐状に切除する「円錐切除術(えんすいせつじょじゅつ)」を行います。円錐切除術では子宮頸部の一部と子宮体部を残すことができるので、その後の妊娠が可能です。
ただし、早産のリスクが高まるなど、術後の妊娠・出産に影響が出る可能性があります。
②子宮頸がん(浸潤がん)の場合:子宮全摘術+放射線治療・抗がん剤治療
がんが上皮内からさらに深く広がって「浸潤(しんじゅん)がん」の段階になると、子宮そのものをとる「単純子宮全摘術(たんじゅんしきゅうぜんてきじゅつ)」や、卵管・卵巣、膣の一部、リンパ節などを一緒にとる「広汎子宮全摘術(こうはんしきゅうぜんてきじゅつ)」などの手術が必要となります。その場合、妊娠ができなくなることに加え、排尿障害やリンパ浮腫(下肢のむくみ)、女性ホルモンが作れなくなることによるさまざまな症状などが後遺症として残る可能性があります。
また、がんの進行の度合いによっては、術後に放射線治療や抗がん剤による化学療法を追加することがあります。
4.子宮頸がんは予防できる?
①検診で早期発見はできるが、「がんの発生」を予防することはできない
子宮頸がん検診では、組織の細胞をとって調べる「細胞診(さいぼうしん)」という検査を行います。
この検査で前がん病変や早期がんのうちに見つけて円錐切除術などの治療をすれば、それ以上の進行を防ぐことができます。このことを「二次予防」といいます。
しかし、がんや前がん病変があっても検査で必ず見つけられるわけではありません。そのため、たとえ検査で異常が認められなくても、その後で子宮頸がんになってしまう人が一定の割合で出てきてしまいます。
②HPVワクチンは、がんの原因となるHPV感染を予防できる
検診による二次予防に対して、子宮頸がんの原因となるHPVの感染そのものを予防(一次予防)できるのがHPVワクチンです。
HPVには多くの型がありますが、子宮頸がんの原因の大部分を占めるのが16型と18型です。この2つの型のHPVを予防できるワクチンを2価ワクチンといいます。4価ワクチンは16型と18型に加えて、尖圭(せんけい)コンジローマの原因となる6型と11型のHPV感染も予防できます。
これらのワクチンを接種することで子宮頸がんの約70%を予防できるとされています。しかし、HPVにはそれ以外の型もあり、ワクチンで予防できない型のHPVが原因で子宮頸がんになることもありえます。したがって、HPVワクチンを接種した人も子宮頸がん検診を受けることが大切です。
5.厚生労働省でHPVワクチンの接種を推奨していないのはなぜ?接種はするべき?
HPVワクチンの接種を国の施策として早いうちから実施してきた欧米の各国だけでなく、国内でもすでにHPVワクチンの有効性を示すデータが出てきています。
ところが、HPVワクチンの接種後に慢性的な痛みや運動障害などのさまざまな症状が報告されたことから、日本ではHPVワクチンの接種を積極的に奨めることをいったん控えるようになりました。しかしその後の調査では、HPVワクチンを接種していない女子にも同じような症状がみられる人がいることが報告されています。
また、先に報告されたさまざまな症状とHPVワクチンとの因果関係は、今日に至るまで示されていません。
現在、HPVワクチンの接種については、他の定期接種のように一定の年齢になると自治体から接種対象となる人に案内が送られてくることはありませんが、国が定める定期接種であることに変わりはありません。対象年齢である小学校6年生から高校1年生の女子は、希望すれば公費助成により無料でHPVワクチンを接種することができます。
公益社団法人日本産科婦人科学会では、科学的見地からHPVワクチンの接種を推奨し、現在中止されている接種推奨の再開を厚生労働省に求める意見を表明しています。
また、予防接種・ワクチンに関連する16学術団体で構成される予防接種推進専門協議会やその他の関連学術団体からも、同様にHPVワクチンの接種を推奨する見解が出されています。
【参考リンク】
公益社団法人日本産科婦人科学会 http://www.jsog.or.jp
公益社団法人日本産婦人科医会 http://www.jaog.or.jp
予防接種推進専門協議会 http://vaccine-kyogikai.umin.jp